クリスマス
「お前は私のことをどう思っているんだ?」
聖なる夜。
大切な家族や恋人と過ごす者が多いこの日、例外に漏れる事無くカイはソルと一緒にいた。
いつもより豪華な食事に上等なワイン。
それと町中に溢れる華やかな雰囲気にあてられたのか、この二人の間にも、素直にめずらしく甘い空気が流れていた。
「ソル…」
艶やかにカイがその名を呟く。
甘えるようにソルに寄り掛かって、じっと見上げる。
酒が入ればいつもより大胆になるもの――――と思いきや、カイの内心はどきどきだった。
酔っ払った体を装っているものの、実は酒には弱くないのだ。
「お前は私のことをどう思っているんだ?」
だなんて、普段絶対聞けないことだ。
酔っ払いを演じなければ聞けない自分が情けなかったが、仕方ない。
ソルは何と答えるのだろう。
はやる気持ちを抑えて待っていると、ソルの恐ろしく真剣な声が返ってきた。
「後悔するぞ」
「それはどういう意味だ?」
内心の動揺を何とか封じ込め、カイは平静を装って問い返す。
「本人を目の前にするといいづらいことか?」
「ああ」
あっさりとうなずくソル。
それは、「面倒だ」とか「うざったい」とか、そういう類の言葉ということだろうか。
とたんに不安に駆られたカイにはお構いなしに、さらにソルは言葉を続ける。
「聞いたらもう、後戻りはできねえ」
そう言って、カイを抱き寄せる。
間近に迫った彼女の目をじっと見つめながら、
「良いのか?」
もう一度問う。
こんなことをいわれたのは初めてだ。
知らないうちにカイは真面目な答えを返していた。
「しない…後悔なんて、絶対にしない」
「そうか」
「へ?」
ぎょっとした。
ソルの口調がガラリと変わり、真剣な表情とは打って変わって、いつもの不敵な笑みが浮かんでいる。
「……ソル、お前まさか全部気付いて…」
「やるならもっとうまくやれ。てめえにはできねえだろうがな」
カイはかっと顔を赤く染めた。
これではまるで、道化ではないか。
「真剣に聞いた自分が馬鹿だった!」
恥ずかしさでついつい声が大きくなる。
ソルの顔を見ていられなかった。
そのせいで、再びソルが表情を引き締めたのに、気付くのが遅れた。
「え――?」
ふわりと体が宙に浮かんだかと思うと、次の瞬間、カイはソルの膝の上にいた。
正面から向かい合う。
てっきり芝居だと思っていた、普段見られぬ恐いくらいの彼の表情に、息を呑んだ。
「ん…」
自然と唇が重なる。
照れや恥じらいはない。
ただ、そうなるべく行動しただけだ。
「ソル…?」
いつものように馬鹿にされて、それで終わりだと思っていた。
だが、やはり今日のソルはどこか違った。
「…良いんだろ?」
いつもより低い声が耳に吹き込まれる。
「答えを聞きたいんだろう?」
カイの頬に、ソルの無骨な手が添えられる。
それが彼の、精一杯の優しさだと分かったから、カイはソルの首に腕を絡めた。
「ああ、聴きたい」
「…良いだろう」
再び二人の唇が重なる。
じっくり時間を掛けた口付けの後、ソルはカイを見た。
「まだ聴きたいか?」
問い掛けつつも、ソルの手はカイの襟元に伸びていた。
何をしようとしているかは分かる。
それでもカイは、承知の上でしっかりうなずいた。
「ああ。聴きたい。お前が後悔したくなるくらい」
その言葉に、本当にめずらしく、ソルは盛大に吹き出した。