ゴースト パニック
「ん?」
自宅でタブロイド紙に目を通していたカイは、ある記事に目を止めた。
たまたま買ったそれは、娯楽性を求める大衆紙として有名で、新聞というより面白い読み物として親しまれていた。
普段カイはこういったものは読まなかったのだが、部下の一人に勧められて購入したのだ。
確かに、創作物としてはかなり良くできている。
感心しながら読み勧めていたカイだったが、その記事だけ気になった。
読み進めていくうちに、見る見るカイの顔色が悪くなっていく。
「どうした?」
隣で煙草をふかしてぼんやりしていたソルは、彼女の様子に眉を寄せた。
「何かあったのか」
ひょいと隣から記事を覗き込む。
カイの手が震えているのだろう。
文字が揺れて見づらいが、内容はどこにでもあるような、陳腐な怪談話だ。
いわく、深夜に一人で寝ていると、どこからともなくひたひたという足音が聞こえてくる。
不審に思うが家には一人しかいない。
しかし足音は確実に近づいてきており、ついに部屋のなかへ入ってきた。
恐る恐る目を開けると、髪の長い女が恨めしげに立っていた――
なぜこれにカイが敏感に反応するのか。
「ああ」
ソルはすぐにピンと来た。
「おまえ、怖いのか」
「なっ、えっ! そ、そんなわけないだろ!」
カイは直ぐ様反論していたが、裏返った声が激しい動揺を表していた。
「ほお」
ソルはにやりと笑うと、何を思ったか荷物を掴んで立ち上がった。
「ど、どこへ行くんだ?」
カイの声は震えている。
しかしかまわずソルは部屋を出ていこうとする。
「ま、俺も忙しいんでな」
「で、でも、もう夜も遅いじゃないか。泊まっていけばいいだろう」
カイは予想通りソルを止めにかかった。
逞しい腕にしがみつく。
それをソルは面白そうに眺めてから、
「今夜は俺と一緒にいたいのか?」
わざと低い声で問い掛ける。
一瞬カイの動きがぴたりと止まった。
頭のなかで天秤に掛けているのだろう。
だが、答えはすぐに返ってきた。
「そ…そうだ。おまえと、一緒にいたい…」
声がだんだんと萎んでいく。
それがさらにソルの笑いを誘う。
「おまえから誘うんだな」
「ぐっ…」
言葉に詰まったカイだったが、渋々とうなずく。
「そ、そうだ…」
「そこんとこ、忘れんなよ」
凶悪に笑うソルには一番捕まってはいけないと分かってはいたが、あのタブロイド紙のせいで、今夜一人でいるのは耐えられなかった。
何せ、いつ髪の長い女が恨めしげにやってくるか、分からないのだから。
「おい」
おまえが選んだんだんだ、ということを強調するように、ソルが手を差し出してくる。
「……」
分かっている。
この手をとったらどんなことになるのか。
きっとあとで恥ずかし死にたくなるのは確実なのだ。
分かっている。
分かってはいるが……。
「……ああ」
襲われるなら、幽霊よりソルのほうが良い。
覚悟を決めて、カイは差し出された手を、決死の思いでとった。