白銀の約束
「ん・・・」
重ねた唇の合間から、自然とカイから甘い吐息が漏れる。
幾重にも包み隠した本心をゆっくりと剥がされるような感覚に酔わされて、自然とソルのジャケットを掴んでしまう。
何度も繰り返された行為なのに、一向に慣れる気配が無いのはどういうことだろうか。
相変わらず顔が火照るのを押さえきれないカイの頬は、普段の白さに加えて朱が彩りを与えている。
カイから逃げ場を奪い、壁に追い詰めたところで唇を寄せたソルだったが、今日は少し様子が違った。
いつもはカイから全てを奪い取るように強引さばかりが目立つというのに、今は焦らすかのごとく動きが緩慢だ。時々思い出したように顔の角度を変えるだけで、カイの口内に侵入する気配は無い。
普段はすぐ熱に浮かされて思考を阻まれ、意識の及ばないところで思わず大胆な行動をとってしまうカイだが、今はまだ理性の飛ぶ一歩手前。
ちゃんと頭で考えられる分、通常よりも緊張は大きかった。
何度も顔を背けようとするが、そこだけはソルが譲らない。壁とソルとの間で、カイはひたすら耐えるしかなかった。
「・・・はぁ」
やっと解放されたときには、思わず大きな息をついていた。
ソルの腕にすがったまま、顔を上げたカイの目には恨みがましそうな色が浮かんでいた。
「め、目を瞑れって言うからそうしたのに、いきなりキスするなんて・・・」
カイの家にやってきたソルが一番にカイに要求したこと。それは、四の五の言わずに目を瞑れということだった。
訝しがりながらも言われた通りにして、先程の状況に至ったのだ。
「びっくりしたじゃないか・・・何がしたかったんだ?」
だが、質問には答えず、ソルはだんまりのままソファに身を沈めて一言。
「飯」
「・・・・・・」
カイに背を向けて振り返ろうともしない。
一体何なんだ?
首をかしげながらキッチンに向かうカイは、ふと首から胸元にかけて違和感を覚えた。
「えっ・・・?」
視線を落とすと、見慣れないものがぶら下がっていた。
「これって・・・」
大きく見開いた青緑の双眸に映るのは、白銀に輝くロザリオ――――以前、カイはソルを心配して自分のロザリオをあげたのだが、よほどソルは神と縁が無いのか、あっさり失くされてしまった。そのため、お詫びに代わりのものを用意して欲しい、と言ったことがあったのだ。
ベッドの上での約束と、そんな約束を交わしたことはおろか、ロザリオを持っていないことすら忘れてしまっていたカイだが、どうやらソルはちゃんと覚えていたらしい。
「あっ・・・!」
カイははっとして振り返った。
不可解な要求。
いつもより長いキス。
そして、一向にこちらを見ようとしないソル――――。
カイに気が付かれないよう、鎖を首に掛けるのは大変だったろうに・・・。
かぁっと血を昇らせながら、もらったばかりのロザリオを握り締めたまま、カイはソルの背中に向かって、恥ずかしさを隠すように大きな声を上げた。
「ばっ、馬鹿! 何でお前が先に照れるんだ!」
勿論、答えは返ってこなかった。