いつもの
「に・い・さ・ん♪ふっ」
「っっ!? ジン、テメェ!!」
「ふふ、兄さんは相変わらず耳が弱いんだね」
いきなり背後から迫られて、耳元に息を吹き掛けられたラグナは、そんな行為自体をしたジンと、まんまと驚かされた自分への怒りから、顔を上気させながら眉を釣り上げた。
「兄さんはいつでも僕の心を騒つかせるんだ。あぁ、良いよ、兄さん…」
「気色悪いこと言ってんじゃねぇ! つかテメェ、何手に持ってんだ!」
「え? 何って、録音機だけど。兄さんの声を…」
「ぶっ潰す!」
「兄さん、もしかして僕とやり合いたいの? 良いよ、兄さんがその気なら、僕も」
相変わらずいまいち噛み合っていない兄弟の会話を、相変わらず呆れた表情でライチは聞いていた。
「全く、よくやるわねぇ」
彼女は隣にいたノエルに目を向けた。
「あなたも大変ね。あんな人たちと一緒で…」
「良いな…」
「え?」
思いがけないノエルの一言に、ライチが目を見張る。
その間にノエルはふらりと2人に近づいていった。
そして。
「ふっ」
「のわっ!!」
「なっ!?」
言い合いをしていた2人にとっても、ノエルの行動は不意討ちだったようだ。
「あっ、ホントに弱いんですね」
「貴様! 兄さんに息を吹き掛けていいのは僕だけだ!」
「いいわけねえだろ!! あー、もう、めんどくせぇ。テメェらまとめて返り討ちにしてやる!!」
「きゃああっ!」
ノエルの行動に唖然とするライチの目の前で、3人はいよいよ取っ組み合いに発展しようとしている。
基本的にラグナがジンとノエルを追いかけ、ノエルは頑張って逃げているし、ジンはノエルに負けまいと、すきあらばラグナに奇襲を掛ける気満々。
いい大人のすることではない。
「ホントにもう、困った人たちね」
ふう、とため息をつくライチ。
診療所の居候3人が来てから、騒がしくない日はない。
幸い患者さんから苦情は出ていないので、それは良い。
というか、ライチ自身この状況を許しているのだから、いつの間にか彼らに毒されてしまったのだろう。
「平和ねぇ…」
「どこがだ!」
ラグナの突っ込みは無視して。
ライチはのんびりと茶をすすったのだった。