かぐや姫
昔々、あるところにおじいさんがいました。
名前を闇慈と言います。
ある日おじいさんはおじいさん所有の竹林の中で、一本だけ光っている不思議な竹を見つけました。
好奇心旺盛なおじいさんが、その竹を割ってみると、そこには小さな赤ん坊がいました。
赤ちゃんなのに、ひどく目つきが悪い、女の子です。左目に大きな切り傷がありました。
しかし、どこか色っぽい赤ちゃんでした。
おじいさんはその赤ちゃんにかぐや姫と言う名前をつけて、自分で育てることにしました。
かぐや姫はすくすくと大きくなり、三年後には見事な女性に成長していました。
迫力のある、グラマラスな美女です。
かぐや姫の噂はあっという間に広がり、世間でかぐや姫を知らない人はいないほどでした。
当然、おじいさんとしては心配なことがありました。
それは、かぐや姫への求婚です。
もし、どこぞのボンボンに持っていかれたら!
それを考えると、心配で夜も眠れないほどです。
おじいさんは考えていました。
もしもかぐや姫に求婚するものがあれば、この世には存在しない伝説の秘宝を所望して、愚かどもを追い返してやろうと。
いかに偉い人であっても、おじいさんはかぐや姫を渡す気はさらさらありませんでした。いざという時は自慢の扇が黙ってはいません。
――――が。
おじいさんの心配をよそに、かぐや姫への求婚者は現れませんでした。
「あれ? どういうことだ?」
こんなに美しい女だぞ?
おじいさんは気がついていなかったのです。
かぐや姫の欠点を。
「ああん? 何見てんだい?」
今日も今日とて、かぐや姫は絶好調でした。
徳利とキセルを傍らに置き、恥じらいもなく胡坐をかいています。
見物人にきた者には、容赦なくガンたれます。
口も悪いし、鋭い隻眼に睨まれるたび、蜘蛛の子を散らしたように皆逃げていきます。
この姿を見てなお、かぐや姫に求婚しようとする勇気ある者は、残念ながら現れませんでした。
多分、これが通常の、世間一般で言う普通の人の、正常な反応だと思われます。
しかし、おじいさんは違います。
「こうしている間にも、誰かが狙っているかもしれない。その時はまず・・・」
頭の中での予行演習は余念ありません。
かぐや姫もかぐや姫で、
「おい、酒がきれた。酒持って来い!」
「あ、はいはい。ただ今」
おじいさんはまるで当然のことのように、酒を取りに行きました。
この家は、どうやって生計を立てているのでしょう。
ともかく、おじいさんはこの生活に、とても満足しているようでした。
「どうぞ」
「ああ、今日のはなかなか美味い酒だな」
「ちょっと奮発しちゃったんだよ」
これではどちらがこの家の主人か、分かったものではありません。
おじいさんの心配をよそに、今後もかぐや姫への求婚者は現れませんでした。
それはそれで、おじいさんとかぐや姫は、それなりに幸せに暮らしました。