目に見える愛のかたち




「お、お前なあっ!!」
 久々の大物賞金首との戦いを終えたソルを待っていたのは、ついに我慢の限界を超えてしまったカイだった。
 換金場所に現れたソルを見つけるや否や、人目があるのも構わずカイは詰め寄ってきた。
「何だ」
 珍しく後ろ暗いことのないソルは、不満そうにカイを見返した。
 それがカイの逆鱗に触れたらしい。
「ちょっと来い!」
 血に染まった腕を掴むと、換金前にもかかわらず、建物から連れ出してしまった。
 さらに歩いて、人目のつかぬ場所に来てようやくカイの足は止まった。
「一体何のつもりだ」
 立ち止まったら言おうとしていたソルの言葉を、奇しくもカイが口にした。
「・・・どういうことだ?」
 わけの分からぬソルは、出鼻をくじかれて眉を寄せるくらいしかできない。
 しかしカイにはそれも気に入らなかったようだ。
「どういうことだ、じゃないだろう!」
 きっと睨みつけると、早口にまくし立てた。
「お前だろう! 私の通帳をこんなにしたのは!!」
「はあ?」
 ソルは突き出された通帳に目を向けた。
 ああ、そのことか、と、やっとソルは事態を飲み込んだ。
「やっぱりお前か! 最近忙しくて記帳していなかったから気がつかなかったが、急に預金額が桁違いに増えていたから、たまげたんだぞ!」
 通帳を懐にしまうと、怒りながらもカイはどこか安心したような表情を浮かべた。
「・・・まあ、何か面倒なことに巻き込まれているのではなくて良かったがな。それにしても、いつの間にお前、私の口座に金を入れていたんだ。そもそも何故私のところに金を預けた?」
「面倒だったからだ」
「そんな理由なのか」
 他に何か理由があるか、という顔で見返してきたソルに、カイは思わず大きく息を吐き出した。
「あのな、わざわざ私の口座に入れるほうが面倒だろう。それまではどうしていたんだ」
「持っていたに決まってんだろ」
「現金をか!? ちゃんと口座を作ったらどうだ。持っているよりはましだろう」
「・・・面倒くせえ」
「・・・・・・」
 呆れたようにカイは頭を振った。
「そんなことをして、私がこの金を着服したらお前、文無しだぞ?」
「そんなことしねえだろ」
「そ、それはそうだが・・・」
 何の迷いもなくそう言い切られると、どこかこぞばゆい。
 内心を悟られたくなくて、カイは慌てて言葉を紡いだ。
「じゃあ、ここから食事代と宿泊費を引いておくからな」
「もともとそのつもりだ」
「ええっ!?」
 思わず大きな声を上げたカイに、ソルは顔をしかめた。
「何か?」
「いや、何もないが・・・そういう金だったのか・・・?」
 今まで気にしたことがなかっただけに、どうしても意外な気がしてならない。そこまでソルが考えていたとは・・・。
「実に不愉快な反応だが」
「いや・・・、それは悪かった」
 カイは、今さらのように掴んでいた腕を放した。
 まだ洗い落としていないため、血がこびりついている。
 それがソルの生業なのだから仕方ないのだとは言え、そうして稼いだ金を疑いもなく自分に預けられていると思うと、何故か無性に嬉しかった。
「その格好で街を歩かれたのでは、立派な不審人物だな」
「放って置け」
「そうはいかん」
 ためらいなく血のついたソルの手に指を絡めると、有無を言わさずカイは歩き出した。
「何が何でもお前を問い詰める気でいたから、仕事は終わらせてきてある。これからのこともあるし、色々話し合わねばならないからな。付き合ってもらうぞ」
 もっともらしいことを述べてはいるが、本当にカイが言いたかった言葉は、たった一言。
 肩越しにソルを見たカイは、ポツリと漏らした。
「帰ろう」
 うなずく代わりに、ソルはつながれた手に力を込めた。



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