いちご






※「ハイスクールパラダイス」設定です(ソル説得中あたり)。



「またここにいたのですか」
 ため息混じりにそう言ったのは、次期生徒会長のカイ。
 その足元に転がっているのが、彼女の悩みの種、ソルである。
 昼下がりの屋上。
 陽気は穏やかで、昼寝をするには絶好の日だ……授業中でなければ。
 学校にはいるくせに、授業にいつまでたっても出席しないソルに、いい加減カイの堪忍袋も切れかかっていた。
「聴いているのですか? ソル!」
 彼女にしては珍しく大声で怒鳴ると、ようやくソルは目を開けた。
 じーっとカイを見上げて……。
「…いちご」
「は? ……えっ!」
 最初はソルの言葉にきょとんとしていたが、はっとしてカイはスカートの裾を押さえた。
「み、見たのですか!?」
「見てねぇ」
 やれやれといった風にごろりと寝返りを打って、ソルはしれっと一言。
「見えただけだ」
「見たことに変わりないでしょう!」
 怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたカイは、ソルの腕をつかんだ。
「いいから、今日こそは授業に出てもらいますからね!」
 そう言ったものの、渾身の力をこめてひっぱっても、びくともしない。
 それどころか。
「見られたくねぇなら、んなところにつっ立ってんじゃねえ」
 ソルに手首を捕まれたかと思うと、カイの視界は反転した。
「きゃ!」
 ひっぱられるまま、気が付くとカイはソルの隣に横たわっていた。
 目の前には、にやりと笑ったソルの顔。
 説得に失敗して、腕を引っ張ったつもりが、逆に倒されてしまう――――もはやその流れは毎日お馴染みの展開になっていた。
 それが無性に悔しくて、カイは起き上がろうとしたが、いつのまにかソルが回した腕によって、それはかなわなかった。
「は、放してください! それより、授業…!」
 じたばたもがくが、結果は同じ。
 すぐ近くに彼の体温を感じる。
 日増しに動揺の度合いが大きくなっていっているのを、カイ本人も分かっていた。
 だからこそ、ついムキになって抵抗してしまう。
「ソル、馬鹿なことはやめなさい! 今なら授業に間に合うんですから!」
 取り乱したカイとは対照的に、ソルは落ち着いたものだ。
 黙り込んでカイの言葉を聴いていた。
 だが、カイは気付いていなかったが、彼の肩はかすかに震えていた。
「聴いているのですか? ソル!」
 動揺する彼女を見ぬふりしながら、こんな関係も悪くはないと、ソルは感じ始めていた。






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