月光
気がついたら、周囲はすっかり闇に染められていた。
道理で読んでいる本の字が見えづらかったわけだ。
いつの間にか、カーテンも引かれていない窓から差し込む月の光で本を読んでいたカイは、強張った首や肩の筋肉をほぐすように数度首を回した。
雲もなく、実に佳い夜だった。
月が明るいせいで、星はさっぱり見えない。
それでも星の明かりを補ってあまるほど、月は異様なほど光を放っている。
カイは本を閉じて机に置くと、窓のそばまで行った。
カーテンを引いて明かりをともそうと思ったのだ。
だがその手は、カーテンを掴んだままとまった。
「・・・・・・」
カイは期せず、明るすぎる月を眺める。
まぶしいほどの光を浴びながら、対照的にカイの心は鉛でも飲み込んだかのように重く沈んでいた。
こんな月の夜は思い出してしまう。
カイは己の身を抱きしめた。
この前、ちょうどこんな月の形のとき、自分の傍らにはソルがいた。
確か、同じように月の光を明かりとして、とりとめもない会話を交わしていたような気がする。
会話の内容はさっぱり思い出せない。
それでも、隣にソルがいることで満ち足りた気分だったのは間違いない。
一人こうして同じような月夜を過ごしていると、余計今の自分が孤独を感じているとわかる。
いつからだろうか。
こうして一人夜を明かすことに寂しさを感じるようになったのは。
以前は平気だった。
むしろ普段仕事で多くの人とかかわるので、一人でいられる時間を大切にしていたくらいだ。
今でも、一人の時間は必要だと思う。
だが、望んだ一人の時間を過ごすのに満足しながらも、それ以上に誰かを待っている自分がいた。
「誰か」などという言い方は今さらだ。
誰あろう、ソルだ。
ソルはふらりと何の前触れもなくやってくる。
事前に連絡を寄越したことなどあっただろうだろうか。
記憶を手繰ってみたが、そのようなことはなかったように思う。
最初は、自分勝手なことだと困惑したものだ。
しかし、今は――――
「っ・・・」
カイはロザリオを握り締めた。
今は、いつソルが来るだろうかと、そのようなことばかり考えている。
一人でいても、誰かといても。
ふとした瞬間に思うのだ。
どうかしている、と自分でもわかっていた。
わかっていても、どうすることもできなかった。
特に、このように月の明るい夜という、ソルと過ごした記憶をまざまざと思い出させる印象深いときには。
考えずにはいられないのだ。
――――自分は、ソルにとって、果たして特別な存在となり得ているのか、と。
「くっ・・・」
カイは月の光をさえぎるようにカーテンを引いた。
「・・・私は、馬鹿だ」
一人では到底解決できそうもない問いを抱えながら、それでも問わずにはいられない。
そんな思いを振り払うかのように、カイはベッドに倒れこんだ。
かすかに、ソルのにおいがした気がした。