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   シンデレラ





 昔々、あるところに女の子がいました。
 名前をディズィーといいます。
 両親とお屋敷で幸せに暮らしていましたが、お母さんはまもなく病気で亡くなってしまいました。
 お父さんはまもなく新しいお母さんを連れてきました。
 そのお母さんには娘がいました。
 新しい生活は、ディズィーにとって幸せなものではありませんでした。
「せっかく貴族と結婚できたアル。これで娘たちを王子に嫁がせられなかったら無駄な努力アル。ん? アナタはこれからシンデレラと呼ぶアル。いいアルネ」
 新しいお母さんはそう言うと、その日からディズィーのことをシンデレラと呼ぶようになりました。
 けれど、ディズィーは、
「お母様。私に名前を下さったのね。私は幸せ者です」
 健気にもそういい続けていました。
 そんなある日、お城から舞踏会の招待状が来ました。
 お母さんもお姉さんも、浮かれ気分前回でした。
 しかし、シンデレラには、その舞踏会に出ることを許されませんでした。お母さんは言うのです。
「アナタには留守番していてもらうアル」
 お母さんの言うことは絶対です。
シンデレラは残念な気持ちを押し殺して、笑顔でみんなを見送りました。
「ごめんね、シンデレラ。王子は誰にも渡したくないんだ。でも絶対、お土産買ってくるからね!」
 お姉さんは、王子のことが好きでした。
 常に黒眼鏡をかけているジョニーと言う王子が、お姉さんのメイの意中の相手です。
 それを知っていたシンデレラは、お姉さんに笑顔を向けました。
 誰もいなくなったこのお屋敷は、とても広いものでした。
「退屈だな・・・」
 シンデレラは段々寂しくなってきました。
 お城からは楽しげな音が聞こえてきます。いっそ何も聞こえなかったらもっと良かったでしょうに。
「私も楽しい時間を過ごしたい」
「それがお前の望みか?」
「えっ?」
 一人しかいないはずの部屋から、知らない男の人の声がしました。
 シンデレラはびっくりして振り返りました。
「あ、あなたは・・・?」
 そこには、黒いローブを着た男の人がいました。真っ黒ずくめの中で、唯一目だけが深紅です。
 少し見とれていると、その人は答えました。
「私は魔法使いだ」
「魔法使いさんですか!」
 なるほど。それならば急に現れた理由も分かります。
「魔法使いさんは、何をしに来たのですか?」
「私は全国の困っている人に愛の手を差し伸べるべくここへ来た。お前の望みはあの舞踏会へ行くことだろう。いい、何も言うな。ちゃんと分かっている。全く、お前の家族は何をしているのだ。お前を一人残すなど。私だったら屋敷のひとつくらい吹き飛ばしてやるところだ。いや、このまま無事に済むとは言い切れないがな。くくく・・・。おっと、いかん。違う世界に行っていた。だが、もう安心しろ。かぼちゃとねずみも用意してある。あとはお前のドレスだけだが、お前はどのようなドレスが好みだ?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
 無表情で淡々としゃべり続けた、やけに準備の良い魔法使いに、シンデレラは戸惑いながら手を差し伸べました。
「あの、あなたのお名前は何と言うのですか?」
「私? 私は魔法使いだが」
「いえ、お名前です」
「・・・? テスタメントだ」
「テスタメントさんですか・・・」
 嬉しそうに微笑んだシンデレラに、魔法使いはちょっと首を傾げました。
「それがどうした。さあ、早く舞踏会へ行かねば、お約束の時間になってしまうぞ」
「・・・いいえ。舞踏会は、いいです」
「え?」
 魔法使いは目を瞠りました。
「何を言っているのだ。私の力を見くびっているなら、それは大きな間違いだ。無事に城まで送り届けてやる。保険だって下りるぞ」
「違うんです」
 シンデレラははっきりと首を振りました。
「私は、さっき独りでとても寂しかったんです。でもそれは、舞踏会に行けなかったからじゃなくて、みんな楽しそうなのが羨ましかったからなんです」
 だから、とシンデレラは実にさわやかな笑みを浮かべて、魔法使いの手を握りました。
「あなたが現れてくれて、本当に嬉しいです。だから、もし望みがかなうならば、これからもずっと私と一緒にいてください」
「なっ! ええっ!?」
 こうして、シンデレラと魔法使いは、末永く幸せに暮らしました。

   


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