・・・その後



「全く・・・」
 カイは呆れたように、ため息をついた。
「お前がきちんと説明すればこんなことにはならなかっただろう」
「・・・・・・」
「お互い余計な労力を使う必要も無かったし」
「・・・・・・」
「全部お前が悪いんだからな」
 そう言ってカイは隣に寝ている男に背を向けた。
 闘いの結果など、悔しくて思い出すだけでも忌々しい。過去に例を見ないくらいあっさり負けてしまったのである。
 たった一振りだ。
 それだけでカイの意識を断ち切った。もともとソルが本気で闘ってくれることを望み、彼を倒すことを目標としていたカイにとって、ソルは強かった。今日は特に気合が入っているようにも思えたのだが、それはソル本人のみの知るところだ。
 気がついたら知らない宿のベッドの上に転がされていたのだから、ひどい話である。
 そして今に至る。
 辺りはまだ暗い。夜明けまでにはまだ時間がありそうだった。
 カイはもう一度ため息をついた。ソルの腕枕が心地良過ぎて、さらに悲しくなってきたのだ。そっと大きな手の上に自分のそれを重ねる。ほっと安心するのが自分でも分かった。
 と、その大きな手に、不意に力がこもった。
「え?」
 カイが驚きの声を上げたのと同時に、背中から何かがのしかかってきた。
「どうした?」
「わっ!」
 身を引こうにも逃げ場など無い。カイは見事にソルの腕の中に納まっていた。後ろから抱きしめられ、耳元で声がするだけで今さらながら緊張する。
「お・・・起きていたなら、返事でもしたらどうだ」
 動揺を隠し切れない震えた声でそう返すのが、精一杯だ。
 それに気が付いているのかいないのか。
 ソルはふん、と鼻で笑っただけだ。
「だいたい、出張できているというのに、予約した宿には荷物が置きっぱなしだし、報告書は書けていないし、このまま午前中には飛空挺に乗り込まねばならない。仕事だというのに、いったい私は何をしているんだ・・・」
 全部ソルが悪いと言ってみたところで、昼間の騒ぎは自分の勘違いが招いたことだ。
 それを思うとため息は禁じえない。
 だが、出張中であったとはいえ、異国で見慣れた人物を見つけ、なおかつ彼が見たこともない女性とホテルに入っていく場面を目にしてしまったのだ。
 その場で衝撃と怒りを抑えるのが精一杯で、疑いを挟む余裕は欠片もなかった。
「そんなに俺が女とホテルに入っていくのがショックだったのか?」
「悪かったな! その通りだ」
「何故だ?」
「・・・何故?」
 思いがけない問いに、カイは言葉を失った。
「何故って、それは・・・」
 勿論、ソルが他の女性と関係を持ったと思ったからだ。
 彼が自分のものだとは言えない。
 そこまで彼を縛るつもりはないし、そこまで思い上がってもいない。
 ソルに他の女がいようと、それを咎めることは、自分にはできない。
 ・・・そう、思っていた。
 だが、実際はどうだ。
 仕事できていたはずの遠き地で、我を忘れて動いてしまった。
 それが誤解だとは疑いもせずに。
 自分の未熟さと余裕のなさが情けない。
 カイは少し体を丸め、顔を伏せた。そして、背後の男には気がつかれないようひっそりと、どこか憮然とした口調で呟く。
「・・・悔しいが、それだけお前が好きなんだ」

 


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