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  サカナ(or人魚) 1





「か、カイちゃん。もう諦めたら?」
 困り果てた様子のアクセルとは裏腹に、カイの顔は怒りに満ちていた。
「いえ! そうはいきません!」
 どん、と机を叩きつけると、カイはずいと身を乗り出した。
「私は大切な唇を、助けてやった人間の男に奪われてしまったのですよ!?」
 怒りと悔しさのあまり、彼女の目にはうっすら涙すら浮かんでいる。
 よほど我慢ならなかったのだろう。
 そんなカイに、アクセルはあたふたするばかりだ。
「お、落ち着いて。ね?」
「落ち着いてなどいられますか! わ、私の人生に関わることなのですよ!?」
「ぐえぇっ! カイちゃん! 首! 絞まってるから!!」
 アクセルの襟首を掴み、悲痛な訴えを受け流して、容赦なく揺さぶり続けながら、カイは興奮した様子で叫んだ。
「私たち人魚は、初めて口付けを交わした者と一緒にならなければならないんですよ!? いつのまにか 男はいなくなるし! どうすれば良いんですかー!!」海底に、嘆きの声が響き渡った。
「と、とにかく、こんなところで騒いでいても仕方ないよ。その男探そうよ」
「た…確かに、そうですよね。私としたことが…」
 ゴホン、と咳払いしながら、カイは長めの前髪をかきあげた。
 白い肌も見事なら、顔のパーツの配置も抜群だ。
 まるで絵画の中から出てきたような美貌を兼ね備えながら、今まで艶のある噂がなかったのは、ひとえにカイがその手のことに興味がなかったからだ。
 そんな彼女が、いきなり唇を奪われてしまったのだ。
 しかも見ず知らずの男に。
 パニックに陥るのは当然だろう。
 アクセルは背後から怪しげな水晶玉を取り出した。
「あれ? アクセルさんは、占いもやっていましたっけ」
「あ…う、うん。まあね。いまどきの魔法使いは何でもできないとね。つぶしがきかないんだよ」
「そうなんですか。大変ですね…」
 同情の眼差しを受けながら、黒いローブを着たアクセルは、何やら意味不明な呪文を唱えつつ、何やら難しい顔をした。
「ええい!」
 気合いを込めて、水晶玉をじっと見つめる。
「うーーーーーん」
「ど、どうですか?」
 緊張した空気が流れる。
 息を飲むカイの前で、アクセルは神妙に口を開いた。
「……お城が見えるよ」
「城? ……ギア城でしょうか」
「あ! そうだよ」
 ぽん、と手を打つアクセルに、カイは大真面目にうなずいた。
「そうと分かれば乗り込むまでです。アクセルさん、私を人間にしてください」「ほ、本当に行くつもりなの? やめておいたほうが…」
「いえ!」
 カイは拳を握り締めた。
「一言言ってやらないと気が済みません! あんな…あんな真似されて、黙っていられますか!」
「ま、まあ、カイちゃんがそういうなら…」
 でも、と突き出された「人間になる条件」に、カイは目を見開いた。





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